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第43回 虫の知らせ
“旋尾線虫せんびせんちゅう

 富山医科薬科大学 上村 清


ホタルイカから
 富山名産のホタルイカに旋尾線虫幼虫がついていて、それが腸閉塞や皮膚のみみず腫れを起こすと新聞報道された。体長たったの1センチ、体幅0.1ミリの糸くずのような細い虫なので、肉眼では滅多に気付かない。たかだか1週間ぐらいお腹が詰まり、ガスが滞る程度の軽い腸閉塞なのだが、開腹手術され、この幼虫が潜り込んでいるのが何例も発見された。また、お腹の皮下を這った跡がかゆみを伴った醜いみみず腫れとなる患者も次々と報告され、マスコミによって全国に報道された。シーズン真最中だったので、ホタルイカの加工品までが店頭から姿を消し、それで生計を立てている業者は大損害を受けた。
 この幼虫は今から30年も前(1969年)に、当時の新潟大学医動物学教室の大鶴正満教授らによって、秋田の腸閉塞患者の開腹手術例で病理標本から発見されたのが最初だが、どういうものからくるか不明のままであった。ところが10年ほど前(1989年)から全国的に腸閉塞や腹部のみみず腫れの患者が続出し、寄生虫学会の話題になっていた。いずれもホタルイカを生で食べていて、実際にホタルイカを調べてみると、同じ旋尾線虫幼虫が見いだされたのである。私たちは富山県関係者にこのことを早速知らせ、県ほたるいか協会、県水産試験場と共同でホタルイカの寄生状態を調査し、どう対応すべきかを検討し、冷凍すれば安全なことを確かめた。
 この旋尾線虫は、どのような動物で親になれるのかまだ判っていない。恐らくアニサキスと同様に海獣イルカの仲間ではないかと疑われている。シーズン始めの3月にはホタルイカにあまり寄生していないが、シーズン終わりの6月に寄生率が数%以上に高まるので、ホタルイカが食べるプランクトンに若い幼虫が潜んでいて、食べて蓄積するのではなかろうか。
過剰反応
 マスコミ報道に過剰反応して、沖縄くんだりからまで、過去にホタルイカを生で食べたが、いつ症状が出て来るかと不安でならないとか、贈り物にした相手が病気になるのではないかと心配でたまらないという電話相談まできたが、動物の寄生虫なので、ヒトではそんなに長生きできるものではない。症状が現われるのはホタルイカを食べた当夜か2,3日後で、何週間も後に出ることはまずない。
 この事件は、いかに新鮮なホタルイカを大都会の市場に送り込むかに精力を注いでいた業界に冷や水を浴びせることとなった。海水に生きたホタルイカと酸素を詰めてトラック輸送すれば、富山でなくてもホタルイカの踊り食いが出来るようになり、グルメブームで全国的に患者を出す結果となった。地元滑川でも観光の呼び物として売り出し、県下でも患者が目立つことになった。
料理法しだい
 ホタルイカは丸飲みするに手ごろな大きさで、内臓も美味なため、注意されなければ丸ごと食べてしまう。幸い、この旋尾線虫幼虫はホタルイカの胃と腸の中にしかいないので、内臓を取り出せば安全だ。新鮮なホタルイカを刺身で食べたければ、内臓を取り除くことだ。
 高温加熱には弱く、60度のお湯で1秒で死滅するので、釜ゆでの加工品は安全だ。しゃぶしゃぶも恐らく大丈夫だろうが、何人かで食べると、充分湯を通さないのを食べかねないので、料理法を心得た料亭でいただくのが良い。
 低温では、マイナス20度ぐらいの家庭用冷凍庫で一昼夜凍らせば大抵の幼虫は死んでしまう。たとえ生きていても半死の状態なので腸を貫いてうろつく元気さはない。だから冷凍加工したホタルイカも安心だ。マスコミ騒ぎのとばっちりで、店頭から加工品まで引き上げさせられたが、これら冷凍加工品を調べたが、生きた幼虫は1匹も見いだせず、全てが死んでいた。


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